望遠鏡と三脚の選び方
1. 購入は、検討に検討を重ね、慎重にしましょう
バードウォッチングに慣れて、自力で鳥を見つけられるようになり、双眼鏡で捉えられるようになると、もう少し大きく見てみたいという気持ちになるでしょう。そうなったら、望遠鏡の購入を検討してみましょう。ただし、双眼鏡よりも値段が高いものが多いので、選択で失敗を避けるのも大事なことです。
自分に合ったものを購入するには、購入は1年ほどじっくりと考えるのが良いと思います。
また、望遠鏡は三脚に載せて使用するため、双眼鏡とは使い勝手が大きく変わり、レンズの中に捉える感覚がかなり異なります。自分にとって“本当に必要か”をしっかり検討しましょう。また、双眼鏡に比べると金額も三脚と合わせるとかなり高額になる大きな買い物ですので、慎重に検討をしたい野鳥グッズの一つです。
2. 傾斜型と直視型
双眼鏡にはダハ型とポロ型があったように、望遠鏡にも形状に2つのタイプがあります。直視型と呼ばれる「覗く方向が水平のもの」と、傾斜型と呼ばれる「覗く方向が少し斜め下のもの」です。直視型はストレート型、傾斜型はアングル型と呼ぶ場合もあります。
3. 世界のスタンダードは傾斜型
日本では、カメラのファインダーを覗く感覚と似ているせいか、望遠鏡は直視型が人気です。しかし世界のバードウォッチャーたちに目を向けると、ほとんど傾斜型を使っています。海外では、野鳥をじっくり観察する人が多いため(まさに“ウォッチング”です)、長時間覗いていても疲れにくい姿勢を維持できる傾斜型を選ぶ人が非常に多いです。世界の望遠鏡のスタンダードは実は傾斜型になっています。
ちなみに私は傾斜型と直視型両方を持っていますが、よく使うのは傾斜型です。野鳥を観察するだけではなく、スケッチするときに望遠鏡を覗きながら手元にある紙を見やすいため、非常に便利だと感じています。
4. 姿勢が楽になる傾斜型
もしこれから望遠鏡を購入しようとお考えの方がいましたら、私のおすすめは、やはり“傾斜型”です。
第一の利点は、観察姿勢が人間の体型に合っているということです。接眼レンズを少し屈んで覗き込む姿勢はとにかく楽なのです。その楽な姿勢の良い影響で、鳥を長く観察することが苦に無くなりますし、長く観察できることで様々な行動や貴重な生態、思いがけない可愛い表情に気づくことができます。
また、鳥は木の上の方にいることが多いのですが、傾斜型は望遠鏡を木の上の方に向けても目の方向は下向きや水平になりますので、直視型に比べると格段に首への負担が直視型に比べると格段に減少します。
5. 仲間と見るなら傾斜型!
傾斜型は、ほとんどの機種で接岸レンズの覗き込む部分を可動式にしているので、背の高さの違う方とバードウォッチングを楽しむ時にも便利です。私はバードウォッチングの楽しみ方には、周りの人と鳥の観察を共有するというものがあると考えています。現に、野外で観察をしていると声をかけられることがあり、望遠鏡でお見せするととても喜んでくださいます。自分の趣味が他の人に喜ばれるものであるというのは、人生の大きな喜びですので、そういう楽しさを感じたい方には、やはり傾斜型が良いと思います。
6. 傾斜型で鳥を捉えるコツ
そうはいっても慣れない形の望遠鏡ですから、最初は難しく感じるかもしれません。早く鳥を捉えられるには、ちょっとコツがありますので、それをお伝えします。
ズームが可能な望遠鏡の場合は、まず鳥を探す前に倍率を一番低くしておくことが大事です。倍率が小さくなると視野が小さくなるレンズの場合でも同じです。倍率が低くなると画面も明るくなり、色の認識が良くなりますし、背景も見えやすくなるので、肉眼や双眼鏡で鳥を見つけた風景と重複するため、見つけやすくなるのです。
大体の場所はわかっているのに、うまく居場所が捉えられない場合は、もう一回鳥の場所を肉眼で確認し、そのまま鳥を見ながら望遠鏡本体の大きな筒に目をつけて、自分の目線と鳥の位置の直線上に望遠鏡の方向が合うように調整をします。私も時々どうしても捉えられないことがありますが、そういう場合はこのようにして探すと、ほぼレンズの中に入っています。
7. もちろん、直視型も便利!
直視型は見つけた鳥の方向に感覚的に向けるだけで捉えることが可能ですし、傾斜型がどうしても慣れないという方もいますので、それであれば直視型こそがその人の購入すべき望遠鏡です。いちばん大切なことは、一生愛せる機種を購入することですので、観察会などに参加して実物を確認させてもらうのが一番良いでしょう。
8. 対物レンズの口径を選び方
対物レンズの口径(有効径)は、覗いた時のレンズの明るさと重さに関係をしてきます。各社製品をみると50〜80mmが多く、大きなものでは90mmというのもあります。この数値が大きければ覗いた時の明るさが増します。しかし、全長や重さも大きくなり、歩く距離が長くバードウォッチングが好きな方や、登り坂が続くような環境へバードウォッチングに行く機会が多い人は、重量や大きさについて、野鳥観察会などですでに望遠鏡を持っている方からのアドバイスを受けると良いかもしれません。また移動手段が公共交通機関を使うことが多い人も、なるべくコンパクトなものを選ぶとメリットが多いでしょう。
重さは、50mmの小型望遠鏡で軽量なものでは400-600gくらいで、60mm以上になると数値が1〜2kg程度になる機種が多くなります。購入前に望遠鏡の重量分の水を入れたペットボトルを準備し、いつも使うリュックにそれを入れて家の近所を歩いてその重量を一度試してみるのも良いでしょう。1時間くらいできついと感じるのであれば、軽い機種を選ぶことをお勧めします。
あとで詳しく述べますが、望遠鏡の本体の重量が増すとそれを支える三脚もしっかりしたものを選ぶ必要があります。運搬は望遠鏡と三脚を足した総重量で望遠鏡を持ち歩くことになりますので、体力とのバランスはしっかり考慮して選びましょう。
9. ズームレンズと単焦点
望遠鏡の接眼レンズや本体にズームレンズを搭載した機種があります。一つのレンズで様々な倍率で野鳥の姿を楽しむことができますので、非常に便利なものです。ズームレンズは倍率によって覗いているレンズ内で視野が変動するものが多く、倍率が低くなると視野が狭くなり、高くなると拡大します。この変動がわかりやすいと考える人とそうでない人がいますので、購入前に自分がその違いが気にいるかどうか、確認することをお勧めします(注:最近ズームレンズで視野の変動がないものもあります。購入金額は上がりますが、それに見合う見え方ですので、機会があれば見てみるのも良いでしょう。
単焦点は倍率が固定されているため、拡大をしたいと思ったら、接眼レンズの交換などが必要になりますが、とても明るいのが特徴です。20-40倍程度のものが人気で、私も20倍、30倍、45倍の接眼レンズを、環境ごとに変えて持っていきます。
10. ピントリング
ピントリングも、メーカーごとに様々な形があります。小さなピントリング1つを指一本で回せるものや大きなピントリング1つを片手で使ってゆっくり回って調節するものが多かったのですが、2000年代に大きく調整できるピントリングと微調整用のピントリングが2つ並んでいるものが出ました。出た当初に試用する機会があり、その操作性には非常に驚きました。人によって使いやすいタイプがあると思いますので、観察会などで望遠鏡を持っている方のものを試用させてもらいましょう。
11. 納得できる機能と性能を選ぶ
私が鳥を見始めた1980年代は望遠鏡の機種も限られていましたが、今はさまざまなメーカーがいろいろな機種を出していますので、形状、重量、対物レンズの口径、接眼レンズとピントリングのタイプを検討してから、価格帯を決めるのが良いでしょう。光学機器は値段の差がそのまま機能性の差と言っても良い製品です。じっくり考えて、一生使える望遠鏡を買いましょう。
12. 三脚も慎重に選ぼう
望遠鏡のタイプが決まったら、三脚を選びましょう。望遠鏡にお金を使いすぎて三脚を安価なものにしている方を見かけますが、それは望遠鏡の性能を落とすことになるため、三脚選びは望遠鏡選びと同じように慎重にしましょう。
大事なことは、望遠鏡で覗いたときに見える画像がブレて見えないことですので、脚が華奢なものや、雲台に乗せたときにグラつくものは絶対にやめましょう。
三脚自体の重さも重要で、あまり軽いものは風が強い場所では細かい振動が起きてしまいます。アルミ製ならば、多少重くはなりますが、しっかりしたものがほとんどです。
しかし、やはり重い三脚では疲労も重なります。高額にはなりますが、そういう方にはカーボン製の三脚をお勧めします。アルミ製のものよりも2-3割ほど軽量化できます。振動の吸収が良いと言われ、さらに冷えにくいという性質があるため、冬の北海道や風のある河原など、寒くて風の強い環境での使用では、威力を発揮します。
バンガードは望遠鏡と三脚を作るメーカーで、初心者向けに最適なセットをご用意しています。ぜひ、[バンガード スコープセット]で検索して見てください。
13. 高さは?
高さは、三脚に望遠鏡を設置して接眼レンズの覗く高さが、エレベーターと呼ばれる三脚の脚以外のセンターポールを伸ばさないで自分の見やすい姿勢を確保できるものを選ぶと良いでしょう。
14. 対荷重について
三脚の“対荷重”というものをしっかり確認しておきましょう。雲台が付属されていない状態で、対荷重が望遠鏡の重さの2〜3倍あるものを選びましょう。「2〜3倍もの対荷重が本当に必要なの?」と思われる方がいるかもしれませんが、雲台+望遠鏡の重さを考えると必要な数字です。数値に余裕を持って選ぶことで、風の強い日にブレの軽減にも繋がります。
15. 雲台の種類
雲台は望遠鏡を三脚に乗せる台のことで、様々なタイプがあります。
バードウォッチャーに人気なタイプは2ウェイ雲台と呼ばれる、一つのハンドルで操作できるものです。ハンドル部分を回転させることで固定できるため、扱いが簡単なのが便利です。
ハンドルが2つある3ウェイ雲台というものもありますが、バードウォッチングを目的にした望遠鏡には、固定をするために調整するハンドルが多いためにあまり使っている人がいません。しかし、野鳥撮影用にカメラを装着することがある方には、細かく向きを変えられるのが気に入っているという人も見受けられます。
雲台にボール状の回転台がついている自由雲台と呼ばれるものもあります。これは可動する範囲が大きくて便利なのですが、ハンドル部分がないので望遠鏡の操作で本体をずっと手でしっかりと支える必要があります。ただ出っ張りが少ないため、私も海外に行くときに三脚をケース収納するときに便利なので、そのようなときには重宝しています。
最近バードウォッチャーたちに良く使われているのが、ビデオ用の雲台です。同じ大きさの他の雲台よりも重いことが多いのですが、動きが滑らかなので、鳥が移動したときに調節しやすいため、私も使っています。
望遠鏡と三脚は切っても切れない関係です。両方ともじっくり検討して、一生使える“あなたにあったセット”を選びましょう。それが一番賢い買い物になります。
16. 雲台の種類
三脚を担ぐときに、ぜひ注意していただきたいことがあります。三脚の脚は必ず閉じて運んでください。よく広げたまま担いで進行方向へ三本の足がバラバラの方向に矢のように飛び出ている状態で、散策路を歩かれています姿を見かけますが、これは絶対にやめましょう。そのようにお願いするのは、お子さんを連れたご家族が「三脚広げて歩かれると、子供に当たりそうで怖い」という意見を聞いたことがあるからです。三脚の脚を閉じて脚先をなるべく下に向けた状態での持ち運びをお願いします。
一人ずつのマナーアップが、バードウォッチングという趣味への好感度をあげます。それは多くの人との出会いや、野鳥の棲む環境の保全の力にもなりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
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感動と発見をもっと近くに
野鳥画家 神戸宇孝(ごうど うたか)
プロフィール1973年石川県生まれ。 5歳の時に野鳥観察に興味を持ち、野鳥画は小学生の時に動物画家の薮内正幸氏の絵を見て描くようになる.CWニコル氏のものの環境管理について学び、2000年英国に留学、野鳥生物を描く基礎を学ぶ。在学中、野鳥雑誌BIRDWATCH野鳥画コンペティションに最優秀画家の一人に日本人としてはじめて出される。野鳥の行動や環境と生き物のつながりを観察するのがモットー。 |
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