第6回 野鳥撮影をしてみよう!

第6回 野鳥撮影をしてみよう!

第6回 野鳥撮影をしてみよう!

記録のための最適ツール!

野鳥たちとの出会いを簡単に記録することができるツールは、やはりカメラでしょう。最近はスマートフォンのカメラ機能が格段に技術向上していますので、記録の仕方にバリエーションが出ています。今回はカメラだけではなく、それを利用した撮影方法もご紹介します。

デジタルカメラの登場

1990年代に発売され、以後、飛躍的に普及したコンパクトデジタルカメラ。カメラメーカーに加え、家電メーカーの参入もあり、様々な機種が出ました。当初は500〜600万画素でしたが、現在は一般的なものでも1500万画素を超える機種があります。2万円程度で購入できる時代になり、ズームで25倍などの入門機種でも、身近な野鳥の撮影を楽しむ方が増えてきました。画質にこだわる人は、光学一眼レフカメラと高価な望遠レンズのセットで楽しんでいます。

王道!光学デジタル一眼レフカメラ+望遠レンズ

野鳥撮影で王道ともいうべきは光学デジタル一眼レフカメラと望遠レンズのセット。

本体もレンズも非常に高額なものがラインナップされています。野鳥撮影用には望遠レンズが必要ですが、メーカー純正レンズは価格設定も高めで、大きなレンズを装着すると三脚に据える必要があります。たくさんの種類の野鳥に出会うために動き回って野鳥を撮影したい人は、レンズの重さも考慮して選択する必要があります。

光学デジタル一眼の大きなメリットの一つは、ファインダー内表示のタイムラグなく高速連写ができることです。カワセミの飛び込みでの決定的な一瞬などを連続して捉えるには重宝です。シャッター音が大きい機種もあるので、気になる人は購入前に音の大きさを確認しておきましょう。

私が買った最初の野鳥撮影用カメラも光学一眼レフでした

ネオ一眼発売の衝撃

大きな望遠レンズを装着し、高額で重くて、設定が難しい光学デジタル一眼レフカメラは欲しくない、でもコンパクトデジカメでは物足りないという人にとって、衝撃的な製品が発売されました。

「ネオ一眼」と呼ばれる、一眼レフカメラに形の似ているコンパクトデジカメです。レンズ交換はできませんが、1台で広角(20mmくらい)から望遠(1000mm近いものもあります)まで幅広く対応するカ機種も充実しています。バードウォッチングをしながらハガキサイズのプリントやSNSに載せるくらいの画質で野鳥撮影もでき、友人たちとの思い出用スナップや道端の花なども撮れるオールマイティーなカメラと言ってもいいでしょう。

本格志向の方からは「画像が荒い」などの指摘もありますが、操作が簡単で軽量であるために持ち歩きもしやすく、女性や荷物のなるべく軽量化したい男性に人気があります。やや暗い場所や細かなピント調整が苦手な機種ですが、気軽に野鳥撮影を楽しみたいのであれば、ネオ一眼タイプのカメラはおすすめの一台です。私も登山や長距離歩く時には便利でよく使っています。

ネオ一眼カメラと呼ばれるコンパクトデジカメ。レンズを縮めた状態。

 

レンズを伸ばした状態

 

 

新しい選択肢、ミラーレス一眼

野鳥撮影をしていると、時々シャッターの音に非常に警戒する個体に出会うことがあります。

私が2012年に購入した光学一眼レフカメラ本体は長年使っていたせいか、シャッター音が大きくなって撮影時に鳥が警戒するようになったので、2017年にミラーレス一眼に買い替えをしました。シャッター音がほぼ無音であるため、野鳥撮影には非常に向いているカメラだと思います。また、防塵防滴機種も多く、フィールドでの使用が多い野鳥撮影では、光学一眼レフよりその点で優位を感じることもあります。

また、ミラーレス一眼は光学一眼レフに比べて本体も装着レンズも軽いのも特徴です。以前私が持っていた光学一眼レフカメラと望遠のセット(カメラ本体+100-400mmズーム)では約2.5kgあったのですが、現在持っているミラーレス一眼は本体に以前と同クラスの100-400mmズームレンズを装着して総重量が約1.5kg。そのため、今は肩掛けのカメラ用ハーネスにつけての移動が格段に楽になりました。

 

しかし、ミラーレス一眼レフカメラにも弱点はあります。私が購入まもなくユーザーとして感じたのは以下の3つです。

1. ファインダーが液晶で背景と良く似た色の鳥は見つけにくい
2. 液晶画面でのピント合わせ(マニュアル設定時)が難しい
3. シャッターを押すと読み込みのために一時的にファインダー内が暗くなるため、飛んでいる姿の撮影は1-2枚程度が限界。

しかし、今はそれぞれ克服しています。1は、双眼鏡でしっかり鳥のいる場所を把握しておけば、実際に鳥がファインダー内で存在がよくわからない場合でもシャッターを押しますし、2は、慣れるために3ヶ月ほどはかかりましたが、今では問題なく把握できるようになりました。3は動画撮影して後に切り出すことがあります。ミラーレスの長所と短所を理解して、うまく付き合うのが良いでしょう。

ミラーレス一眼にも長所と短所はあります

 

望遠レンズの選択

1日歩き回って、いろいろな鳥に出会うことが多い人は、それぞれの鳥との距離に変化があります。また、動きやすさと軽量化も重要ですので、手持ち撮影可能なズームレンズ(100-300mmか、100-400mm)が便利だと思います。私の場合、100-400mmの一本で野鳥撮影をしています。1本の限定使用に決めると交換もないため、埃の入る心配もなくなります。

単焦点レンズは撮りたい野鳥の種類がおおよそ決まっていて、鳥との距離がだいたい変わらない条件の時は威力を発揮します。カワセミの止まる枝がわかっている場合などがその例です。また、ズームに比べレンズの明るさが確保できるため、多少周囲が暗くても、シャッタースピードをあげることができるので、決定的な瞬間を捉えることを望むならば、やはり単焦点が良いと思います。カメラ好きの方に相談をすると600mmで120万円以上のものを勧められることがありますが、自分のバードウォッチングのスタイルに照らし合わせて判断することをお勧めします。

望遠鏡を使用した撮影

野鳥撮影には、「デジスコ」と呼ばれる裏技のような撮影方法があります。望遠鏡(スコープ)の接眼レンズにコンパクトデジカメの対物レンズを密着させて撮影する方法です。一眼レフに比べると軽量で安価なコンパクトデジカメで野鳥撮影ができることで、20年ほど前から普及し始めた撮影スタイルです。デジスコは観察機材をそのまま撮影にも利用できることで人気があります。

よりスムーズに撮影するためには、カメラと望遠鏡をしっかり固定して接続するアダプターや鳥を画面内に捉えやすくする照準器などを揃える必要もありますが、その有無の差は大きく、デジスコをするならば、それらを入手する方が良いでしょう。

デジスコに必要な機材を取り扱う会社や店舗がありますので、興味のある方はまず以下のサイトを参考にして、自分にあったものを選びましょう。

DIGISCO.COM
http://www.digisco.com/index.htm

でじすこや
http://www.digiscoshop.com/

ホビーズワールド(デジスコって何?)
http://www.hobbysworld.com/original12.html

色々買うのは面倒だという人は、三脚に載せた望遠鏡の接眼レンズにカメラの対物レンズを無理やり押し付けて撮影することでもできます。しかし光軸合わせが大変でケラレ(撮影画面内に黒い影が写り込むこと)も出やすいので、お勧めしません。

画面の周囲が黒っぽくなるケラレ

デジスコをするときの注意点として、望遠鏡の接眼レンズは単焦点のものを選ぶようにしましょう。ズームだとピント合わせが難しく、ケラレが出やすい場合があります。

望遠鏡を販売しているメーカーが取り扱っていることもありますので、デジスコをやってみようと思っている方は、望遠鏡を買うときに自分のカメラが使えるアダプターの取り扱いについて「光学機器メーカー名」と「デジスコ」「アダプター」などの検索ワードで、チェックしてみましょう。

スマートフォンを使ったデジスコ

デジスコの要領で最近流行り始めているのが、スマートフォン(以下、スマホ)を使った撮影で、「スマスコ」と呼ぶ人もいます。

スマホのカメラレンズをスコープの接眼レンズに押し当ててデジスコのように撮影します。デジスコ同様、光軸合わせにコツがいるようで、より早く対応するためにスマホの機種によっては、対応したアダプターも販売されています。しかし機種変更のたびに微妙にカメラレンズの位置が変わるようで、買い替える必要が場合もあるようです。私の経験ですが、望遠鏡は傾斜型の方がスマホの画面を見やすくて撮影がしやすいです。

スマートフォンと望遠鏡を使う野鳥撮影では傾斜型の方が画面チェックをしやすい上に操作がしやすいのでお勧めです(使用望遠鏡はZeiss Conquest Gavia 85)

こんな感じで撮影できます

 

三脚の使い方の注意

最近、野鳥撮影をする人が増えたことで、場所によっては三脚が通行人の邪魔になっていたり、立ち入り禁止の柵やロープの内側に入って問題になっています。

三脚の脚が立ち入り禁止のロープを越えて置かれているカメラがありました。ルールというだけでなく、植物保護のためにも、絶対にやめて欲しいことです。

前回の三脚の部分でも書きましたが、三脚を使う場合は、脚部を広げたまま移動しないことや、人が通る時は挨拶して少し三脚をたたむなどの配慮をすることで、周囲の人への印象は格段によくなると思っています。人家にレンズを向けないことなどは普段は気をつけていることだと思いますが、鳥の姿をファインダー越しに追っているときにうっかりレンズが向いてしまうこともあるそうですので、十分注意しましょう。

写真のように木道などでは人が通れるスペースを確保しておきましょう。このような配慮をすることが大切です

ぜひ双眼鏡も持って行こう!

よく「これだ!という写真を撮れるようになるにはどうしたらいいですか?」という質問を受けますが、その場合、私は「野鳥撮影では、まず行動を観察することをお勧めします」と答えています。カメラで撮影するのに、どうして双眼鏡がいるの?と不思議に思われる方が多いのですが、かわいらしい仕草やかっこいい瞬間を実際に観察して「こういうシーンを撮りたい」という具体的なイメージを持つと、そのシーンを収めるために、何をすべきかがわかり、結果として写真の上達に繋がるからです。

また、飛び立ちなどの決定的な瞬間をカメラに収めたいと思ったら、飛び立ち前の行動を察知する“観察眼” が必要です。糞をする、首を上下に動かすなどの行動がその例ですが、それはやはり双眼鏡で観察する経験を積むのが一番の近道です。

さらに、観察をしていると鳥が急に動きを止めたり、首を傾げて上空を気にする行動をすることがありますが、それはタカやワシなどの鳥が接近しているサインです。そういうシーンを事前に察知する力を双眼鏡での観察で早めに気づくことができると、シャッターチャンスを逃さないことにも繋がります。

ぜひ双眼鏡も首から下げていきましょう。

 

鳥に対しても、細心の注意を

鳥に対しても、細心の注意をお願いします。特に巣を撮影することはやめましょう。

鳥たちは卵や雛を守るために天敵に見つからないように巣を作っています。カメラを向けることでカラスなどは鳥の巣を見つけ、その巣にある卵や雛を襲っている観察例が全国で確認されています。鳥を愛でているつもりが、鳥を脅かしていることがあることを、カメラを向ける前に考えるようにしましょう。虫をくわえたままでじっとしている鳥を見かけたら、数枚の写真は良いですが、すぐに立ち去ってあげる配慮が必要です。

 

こんなふうに虫をくわえたまま、こちらを向いてじっと止まっている鳥がいたら、すぐに立ち去ろう

撮影のために鳥を近くに呼び寄せるための餌付けや野鳥の音声を流すことは絶対にやめましょう。

餌付けは一見良いことをしているように見えますが、必ず鳥がやってくることを猫が覚えて狙うようになったり、餌付ける鳥以外の生き物を誘引して近所の農作物に被害が出たり、付近の住宅地に住み着いて住民に健康被害が出ることもあります。
音声を流すことは、野鳥の行動だけではなく、地域の生態系撹乱に繋がることもありますので、これもしてはいけないことです。そのほかにもあるのですが、キヤノンと日本野鳥の会が作成した野鳥撮影マナー小冊子をわかりやすく紹介しています。ごPDFで見ることができますので、ぜひご覧ください。
https://www.wbsj.org/inform_img/2015/04/yachomana_manner.pdf

 

自分がされたら嫌なことは、鳥にもしない

マナーというと何か堅苦しく感じてしまうかもしれませんが、基本的な考え方として
「自分がされたら嫌なことは、鳥にもしない」
という視点で考えていただければ良いと思います。例えば、自分の家の目の前にずっと自分にカメラを向けている人がいたら嫌ですよね? 鳥の巣の前でずっとカメラを向けることはそれと同じだと想いを巡らせていただけたら、鳥が好きな一人としてありがたく思います。

 

 神戸宇考 野鳥画家 神戸宇孝(ごうど うたか)

プロフィール1973年石川県生まれ
英国サンドーランド大学自然環境画学科卒。

5歳の時に野鳥観察に興味を持ち、野鳥画は小学生の時に動物画家の薮内正幸氏の絵を見て描くようになる.CWニコル氏のものの環境管理について学び、2000年英国に留学、野鳥生物を描く基礎を学ぶ。在学中、野鳥雑誌BIRDWATCH野鳥画コンペティションに最優秀画家の一人に日本人としてはじめて出される。野鳥の行動や環境と生き物のつながりを観察するのがモットー。

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