神戸宇孝さんの野鳥観察に行こう!第38回は8月は「イソシギ」。
野鳥観察初心者でも楽しめる観察や鳥を見つけるコツがたくさん。
今月は「イソシギ」。
映画好きの方なら聞いたことのある名前のこの鳥。
BBQなど河原での夏のレジャーで見かけた方もいるかもしれません。
識別のスキルアップのプロセスを丁寧に解説していただきました。
見分け難解克服の手引き種。シギの識別の基礎をイソシギで学ぼう!
ありがたいイソシギ
今回はイソシギを紹介します。
大きさは20cmほどで、ムクドリよりも小さいのですが、嘴が細長いため、実際の印象は数字よりも小さく感じるかもしれません。水辺を好み、海沿いから河川、湖沼などに広く生息しています。全体的には地味な色合いですが、お腹が白く、その白が翼の根元の方へ深くグッと入り込んでいるのが特徴です。
日本で記録のあるシギの仲間はほとんどが渡りの時期に通過するだけですが、イソシギは北海道から九州まで広く繁殖し、越冬もしているため、一年中観察できます。日本のバードウォッチャーにとっては、たいへんありがたいシギです。
- 映画に縁のあるシギ!?
映画に興味のある方ならば、The Shadow of Your Smileという曲で有名な1960年代の「いそしぎ」というアメリカ映画で、この鳥の名前を聞いたことがあるかもしれません。映画の英語でのタイトルは「ザ・サンドパイパー」(The Sandpiper)です。英語でイソシギは正式には、「コモン・サンドパイパー」(Common Sandpiper)といいます。Commonは「普通」という意味で時々省略されますので、辞書にはイソシギと表記されていることもありますが、詳しい方に伺うと、sandpiperは中型のシギの一部を指し、英名でよく使われる語だそうです。
- シギはどれもよく似ている!
バードウォッチングを始めてしばらくすると、見分けの難しいグループがあることに気がつきます。その最たるものの一つと言われるのが、シギの仲間です。大きさや色、嘴の長さや形などが見分けのポイントですが姿が似ているものも多く、さらに実際はせわしなく動き回るので図鑑の記されている内容を確認しにくいのです。そのような状況に「ハマる」人もいますが、多くは「難しいなぁ…」と諦めてしまうようです。私としてはせっかく野鳥の観察に興味をもっていただけたので、識別が難しいというだけシギたちを敬遠せず、「そのうちに、わかるようになるさ」くらいの軽い気持ちで識別にも気軽に挑戦していただきたいと思っています。
以前、ウミネコを取り上げました。その際に、見分けが難しいカモメ類は、まず一年中見られるウミネコをしっかりと覚えてから、ほかの種類を見分けるという方法で、識別のスキルアップを図るという紹介をしました。今回もほぼ同じ方法でシギの識別ポイントをおさえていきたいと思います。
- イソシギしかいない場所でトレーニング
一般的にシギ類は干潟などで群れになっているのですが、種類や個体数をたくさん一度に見ると、どれがどれだか分からなります。そこで今回は、“シギは、イソシギしかいない場所”(※注1)を探すことから始めましょう。水辺環境を広く理由しているイソシギですが、まずはセグロセキレイが好みそうな河原のある川を探してください。
そこから、住宅街や郊外によくある両岸が護岸された幅の狭い支流を見つけましょう。所々に石などで陸ができていたり、河川沿いに小さくても田んぼがあるとイソシギがより好む環境になります。
幅の狭い川はイソシギとの距離が近いので双眼鏡でもよく観察できます。また、イソシギが人の姿に比較的慣れているため、そっと近づけばあまり逃げないという利点があります。干潟や広い河原のある大きな川にもイソシギはいますが、このような環境は鳥との距離が遠いため、慣れてからの楽しみにとっておきましょう。
- セキレイの探し方を応用
観察に適当な場所が見つかったら、矢印が指すような場所に注目しながら、セキレイと同じように水際にいる鳥の姿を探します。
セキレイに比べるとイソシギは地味な色なので、じっとしていると見つけにくいです。
また、セキレイよりも歩くスピードが速いため、双眼鏡にうまく入らないことも続くかもしれません。
しかし、出会いは何度もあるはずですので、少しずつ慣れていきましょう。
- “尾っぽフリフリ”を捉えよう
姿を発見できたら、次に行動のチェックです。歩き終わった直後やじっとしているときにセキレイのように尾を振っている様子を見ることがあります。
これはイソシギによく見られる“尾っぽフリフリ”行動です。実はこの行動は、イソシギによく似ているクサシギ、タカブシギ、ソリハシシギ、そしてイソシギよりも体のやや大きいキアシシギなど複数種に見られますが、種類は限定的です。
それとは別に、シギ類はしゃっくりをしているかのように大きく頭を上下させる行動をしますが、これは多くのシギの仲間によく見られます(イソシギもします)。距離が遠かったり、逆光という悪条件下でも、この“尾っぽフリフリ”行動を確認できれば、種類の絞り込みに役立ちます。
- 翼の白い線に注目
イソシギを見つけ、しばらく観察していると様々な行動が見られます。特に翼を広げたときの白い線はしっかり観察したい部分です。
このような白い線の有無は、シギ類の識別ではとても重要なポイントです。白い線の見え方、太さ、長さなどが種類によって違うため、イソシギでしっかり白線の出方を覚えておくと識別力アップにつながります。
- イソシギに目が慣れたら
小さい河川でイソシギの行動や特徴が分かるようになったら、川幅のある川で遠くのイソシギを見てスキルアップをしましょう。堰の下流側などで浅く水がある場所はイソシギがよくいる場所です。
流れの有無よりも、深さが重要なようで、歩けないような場所に行くことはほとんどありません。
護床ブロック(※注2)の上などもイソシギのお気に入りの場所です。
水より上に出ている部分を双眼鏡や望遠鏡で確認しましょう。
距離が遠くても“イソシギっぽい動き”と“翼根元への白色部の食い込み”をチェックすれば見分けに問題はありません。
- まずはどんな“イソシギ”もわかること
上達のポイントは、自分の目をまずイソシギに目を慣らし、望遠鏡や双眼鏡の中で様々な大きさで見えるイソシギの特徴の行動や見え方を覚えることです。 嘴や足の長さと色、翼の白線の様子のほか、飛んだときに見える腰の白の有無など、それぞれのシギの違いをイソシギの特徴を基礎にして捉えていけば、シギの識別はあなたにとって難しいものではなくなるでしょう。
例えば、写真のようなシギにあったときには、「これは何かちょっと違うぞ?」と思うようになっていることが大事です。
今は違いがわからなくても構いません。いずれ、違いを見つけられるようになります。ちなみにこれはクサシギというシギです。どこが違うとは分からなくても、何となく違うと感じる眼を、まずは養いましょう。
ウミネコのときにもお伝えしましたが、識別のスキルアップは自信をもって見分けられる種類を一つ作り、その鳥とどこが違うのかを探っていくことが一番だと思います。ぜひ、楽しみながら続けてみてください。
- 小さな命に心配りを
初夏から秋にかけて、レジャーで河原に多くの人が訪れます。そのような自然の楽しみ方をする際に、ぜひイソシギのような鳥の存在に気づいてもらえたらと思うことがあります。
文頭で、イソシギは日本で繁殖する数少ないシギと紹介しました。その繁殖場所は石のゴロゴロした広い河原ですが、そのような環境に車で乗り入れて卵やヒナを轢いてしまう例が後を絶ちません。
また、バーベキュー後のゴミを放置すると、それに誘引されたカラスやネズミ、野良猫などによってイソシギのヒナや卵が食べられてしまうこともしばしばです。イソシギが近くで頻繁に歩き回って鳴いていたらすぐに場所を変え、ゴミの持ち帰りの徹底をお願いします。一見、生物などいないように見える石だらけの河原ですが、イソシギのような命がそこにはあります。野外での活動は自分が楽しいことも大切ですが、人間が好き勝手にしていい地球ではないですから、その場所を住処とする小さな命へ想いを巡らせてほしいものです。
バードウォッチャーではないようだったのですが、電車の中で「俺は車を河原には入れないことにしたよ。この前、わかんないだけど、俺の車の目の前でずっと鳥でウロウロしていて、なんかかわいそうになってさ〜」と言っている若者に最近会い、その姿が実にかっこよく見えました。彼がバードウォッチングを始めたら、きっとイソシギのほうから彼に会いにきてくれるでしょうね。
注1…冬にはイソシギのいる環境にクサシギなどの似た種類が飛来することもありますが、数はイソシギに比べると少ないので、この場ではこのような表現にしています。
注2…急な流れから川底を守るために設置される人工のブロック
撮影地:神奈川県(綾瀬市、海老名市、開成町、相模原市、座間市)、群馬県(館林市)、埼玉県(入間市)
お勧め機種:
気軽に出かけられる狭い川などでは小型の双眼鏡でも十分ですが、警戒心の強い場合もあるので、その場合は明るいレンズのものを選んでいくと良いでしょう。堰や護床ブロックなどでの観察は望遠鏡が必須です。せわしなく動きまわりますが、イソシギ自体の発見は難しくないので、傾斜型を選ぶと長時間の観察でも疲れにくいでしょう。
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野鳥画家 神戸宇孝(ごうど うたか)
プロフィール1973年石川県生まれ。 5歳の時に野鳥観察に興味を持ち、野鳥画は小学生の時に動物画家の薮内正幸氏の絵を見て描くようになる.CWニコル氏のものの環境管理について学び、2000年英国に留学、野鳥生物を描く基礎を学ぶ。在学中、野鳥雑誌BIRDWATCH野鳥画コンペティションに最優秀画家の一人に日本人としてはじめて出される。野鳥の行動や環境と生き物のつながりを観察するのがモットー。 |
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