神戸宇孝さんの野鳥観察に行こう! 第43回 1月は「チョウゲンボウ」

神戸宇孝さんの野鳥観察に行こう! 第43回 1月は「チョウゲンボウ」

神戸宇孝さんの野鳥観察に行こう!第43回は「チョウゲンボウ」。

停空飛翔で狙いを定める!翼の先が尖った小形の猛禽、チョウゲンボウを探しに行こう!

  • 身近なハヤブサ、チョウゲンボウ

これまで、トビやミサゴといったカラスより大形の猛禽類を取り上げてきました。今回はそれよりも小さい大きさの猛禽、チョウゲンボウを紹介します。

  チョウゲンボウは全長30cm程度のハヤブサの仲間。ハトくらいの大きさですが、翼を広げると70-80cmほどあるので、飛んでいる姿ではハトより大きく感じることもあります。頭部が青灰色のものは雄で、茶色のものは雌か若い個体です。ハヤブサの仲間には“大自然に生きる孤高のハンター”というイメージがあるようですが、実はチョウゲンボウは身近な環境で一年中暮らしており、探せば会うことは難しくない猛禽類の一つです。

 特に秋から冬にかけては大陸から飛来する個体も加わっているようで、ビギナーの方にも見つけやすくなり、観察の機会も増えるのでお勧めです。

 

  • 肉食インコ!?

 これまでチョウゲンボウを含むハヤブサの仲間は、鋭い嘴や肉食などの類似性からワシやタカなどの仲間に近いとされてきましたが、近年の遺伝子レベルの研究で、ハヤブサの仲間はタカよりもインコやオウムなどに近いことがわかりました。

インコが肉食?などと違和感を感じる方もいるかと思いますが、ニュージーランドにいるオウムのなかには、海鳥の雛などを食べる肉食行動が知られています。ハヤブサやチョウゲンボウが飛び立つ前に頭を上下に振る行動や、タカなどに比べると脚を器用に動かしている様子は、確かにインコやオウムに通じるものがあります。これまで分類では骨などが主な判断材料でしたが、最近は研究の仕方がどんどん変化しています。これからも鳥類学の分野では多くの新発見があることでしょう。そんなことも楽しみです。

 

  •  人気者のチョウゲンボウ

  チョウゲンボウは飛翔も得意なので、軽やかに飛びまわる姿が人気の大きな理由となっています。また、虹彩が黒っぽいことや、嘴が小さめで“おちょぼ口”に見え、とてもかわいく見える表情からチョウゲンボウのファンに女性も多く見受けられます。

 

  • 翼の先端に注目

 猛禽類は飛んでいる姿で出会うことが多いので、チョウゲンボウとの見分けでは翼の形の違いを覚えておくと役に立ちます。トビは飛んでいるときに翼の先端が広げた指のよう深く分かれていて尾羽がお好み焼きのヘラのようですが、

チョウゲンボウは翼の先端がトビに比べてやや尖っており、尾羽は扇のような形になります。

飛び方によっては尾羽を閉じているので注意をする必要がありますが、まずはよく見かける“トビとの違い”に気がつくことが出会いを増やす秘訣です。

 

  •  開けた環境の中でも“好む条件”のある場所がある

 図鑑にはチョウゲンボウの生息環境には開けた農耕地や河川などが書かれていますが、その環境の中でも好んで選ぶ要因を知っていると、出会うチャンスが増えます。例としては、河川では大きな橋や鉄道の鉄橋が近くにある場所、

田畑では電線や大きな建物のある場所です。

チョウゲンボウは人工物を止まり場所として頻繁に利用します。飛翔が得意なチョウゲンボウでも、獲物を待ち伏せしたり、人が近づきにくくて休める止まり場があるほうが良いようです。

 

  • 狙いを定めて急降下!

 チョウゲンボウはハトくらいの大きさの猛禽類で、主にバッタなどの昆虫を狙って食べています。

電柱や電線に止まって草原を見つめ、

急降下します。

獲物を捕らえると、お気に入りの場所へ運ぶために飛び去ってしまうことが多いのですが、運が良ければ食事のシーンに会うことができるでしょう。

以前、近所に棲みついたチョウゲンボウを定期的に観察していたとき、お気に入りの枝にカマキリを持ってきたことがありましたが、いつものバッタと違う食べ物が捕れたことに実に満足げな顔をしているように見えました。

 

  • 停空飛翔で獲物を探す

 チョウゲンボウは止まり木から獲物を狙う以外の狩りのテクニックを持っています。それはヘリコプターのように上空の一点でとどまり、地上の様子を探る方法です。

この行動はホバリングと呼ばれ、チョウゲンボウではよく見られます。翼を小刻みに羽ばたかせながら尾羽でバランスをとるその姿は一見の価値ありです。

 

 

  • 昆虫が減ると…

 しかし、寒さが厳しくなり、昆虫が減ってくるとチョウゲンボウは獲物を変え、ネズミもよく狙うようになります。狩りが成功するシーンにはなかなか会えないのですが、長時間獲物を食べるような行動をしているときは、ネズミを捕っていることが多いので、気になる場合には望遠鏡で観察してみましょう。

 このような生々しい場面を見ると、ネズミがかわいそうという意見を聞くことがあります。確かにネズミにとって悲劇ではありますが、チョウゲンボウも生きていかなくてはいけません。スーパーで豚肉や鶏肉などが料理しやすい状態となり、魚は切り身で並んでいる今の日本では、このように「命が命をつなげている」ことを知る機会は、とても大事なことだと私は考えています。

 

  • のんびり、ほのぼの。食後のチョウゲンボウ

 満腹になった食後のチョウゲンボウは実にのんびりしていることが多く、猛禽類とは思えないほどのほのぼのした表情になります。電柱など日当りのよい場所で、体の羽毛を少しフワッとさせてのんびりしているチョウゲンボウを見つけたら、望遠鏡を使って遠くからしばらく観察してみましょう。

 周囲を多少は警戒しつつ、

胸の辺りの羽毛を整えたり、

尾羽の付け根の部分や、

脚をグーにしながら羽づくろいをしています。

“鋭い眼差しで獲物に迫る姿”など、迫力ある表現の多い猛禽類ですが、それはあくまでも一面でしかないことに気づかされます。猛禽類もそれぞれの状況で、いろいろな行動や表情をしていることに、チョウゲンボウを通して知ってもらえると、私は1人のバードウォッチャーとしてうれしく思います。

 

  • いろいろな猛禽類に会える冬

秋、アオジやツグミなど北国にいた小鳥たちが日本にやってくると、その後を追うようにチョウゲンボウも大陸から移動してくるものが加わって目にする機会が増えます。大陸からやってくるチョウゲンボウと同様にほかの猛禽類もやってきていますので、観察するチャンスも出てくるでしょう。

ハイタカはチョウゲンボウと大きさが近くて見間違いやすいのですが、まずは翼の先端の形に注目するとよいでしょう。チョウゲンボウとの違いを一つでもいいので見つけられたら十分です。チョウゲンボウとハイタカが見分けられたら、より体の大きいオオタカとの見分けも難しく感じることはなくなるでしょう。冬は天候が悪かったり、日照時間の短さなどから、光の条件が良くないことも多いので、シルエットで見分けることが増えてきます。もし時間に余裕があれば、図鑑に掲載されている飛翔姿のイラストや写真を鳥の輪郭だけ模写して、内側を塗りつぶすし、自分なりのシルエット図鑑を作ってみてもよいかもしれません。

 翼の先端や尾羽の形を注目しながらトビとミサゴ、チョウゲンボウが見分けられるようになれば、あとの猛禽類の見分けはその応用です。始めのうちは、

「あれはチョウゲンボウとは違うような気がする」

「今のはハイタカっぽい」

という答えでも構わないのです。実際はベテランの方も、図鑑を見ながらそんなことをよく言っています。まずは鳥たちに出会いに行くことを楽しんでください。バードウォッチングは、すべてそこから始まります。

 

撮影地

茨城県(稲敷市)、鹿児島県(奄美市)、神奈川県(綾瀬市、小田原市、川崎市、座間市)、群馬県(館林市)、埼玉県(川越市)、千葉県(香取市)、東京都(多摩市)、山形県(酒田市)

 

お勧め機種

 チョウゲンボウの観察には、双眼鏡と望遠鏡の両方あると便利です。飛んでいるときは翼の形を見るために、明るいEDレンズ採用の双眼鏡を選ぶことをお勧めします。止まっているときは遠くから望遠鏡で観察しましょう。ズーム付アイピース装着の望遠鏡ならば、無理に近づく必要がないので、チョウゲンボウの表情を楽しむことができます。

 

 

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 神戸宇考 野鳥画家 神戸宇孝(ごうど うたか)

プロフィール1973年石川県生まれ
英国サンドーランド大学自然環境画学科卒。

5歳の時に野鳥観察に興味を持ち、野鳥画は小学生の時に動物画家の薮内正幸氏の絵を見て描くようになる.CWニコル氏のものの環境管理について学び、2000年英国に留学、野鳥生物を描く基礎を学ぶ。在学中、野鳥雑誌BIRDWATCH野鳥画コンペティションに最優秀画家の一人に日本人としてはじめて出される。野鳥の行動や環境と生き物のつながりを観察するのがモットー。

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1件のコメント

久野 均
久野 均

2023年9月20日

非常に参考になりました。私も頑張ります。


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