バードウォッチングに最適なカメラの選び方

バードウォッチングに最適なカメラの選び方

 野鳥の記録には、撮影が最適!

 

 バードウォッチングを始めると、その出会いを記録したくなります。ノートに見た種類を書くなどもありますが、撮影はその中でもポピュラーな手法です。ただし、野鳥撮影では人や風景の撮影とは少し違うコツが必要になります。フィールドでは、三脚に大きなレンズを担いでいる方もよく見かけますが、ここでは、もっと気軽で動きやすく、かつ鳥たちの生活に極力邪魔のない手持ちでの撮影スタイルを提案したいと思います。

バードウォッチング カメラ

キビタキ

 

 

お勧めはミラーレス!

 

 私が今、撮影に使っているのは、2台のミラーレス一眼と呼ばれるカメラです。私は15年ほど、いわゆる“デジタル一眼レフカメラ”を愛用していましたが、使用しているうちにシャッター音が大きくなって鳥に警戒されるようになってしまったので、ほぼ無音のミラーレスに2年ほど前に買い換えました。やはり音がしない分だけ鳥の自然な姿を記録できる、鳥に優しいカメラであると大変気に入っています。また、公園などで野鳥の撮影をする場合、シャッター音は撮影をしない方々には不快に思われることも多いと聞きましたので、無音設定のできるミラーレスカメラはお勧めです。

 

 興味深いのは、ミラーレスカメラはカメラメーカーだけではなく、家電を作っているメーカーが参入していること。手元の操作が感覚的に理解しやすい機種が豊富です。購入前には実機で操作レバー配置などを確認するのが良いでしょう。

 これまでミラーレスカメラの長所をお伝えしましたが、モニターやファインダーが液晶画面なので、画面の中の鳥が小さいときは非常に見つけにくいという意見があります。また、シャッターを切った時に画面が一瞬黒くなるので、空を飛んでいる鳥など動きの速い鳥をフレームで追い続けるのが難しいときがあります。その場合は動画モードにして撮影し、後で切り出す手法を使うと、貴重な出会いを逃しません。

 多少手間のかかることもありますが、撮影音を抑えることで極力鳥の行動を妨げない効果が期待できるミラーレスカメラが私は好きで使用しています。

 

バードウォッチング カメラ

鳥が近くまで寄ってきた。ミラーレスのようにシャッター音がしないと鳥が警戒しない(写真はトウネン)

 

 

お勧めカメラは2タイプ

 

 初心者におすすめの野鳥撮影向きのミラーレスカメラの2つタイプがあります。1つめは、高倍率の望遠レンズ付きのミラーレスコンパクトデジカメ(以下、高倍率コンデジ)です。「ブリッジカメラ」や「ネオ一眼」とも呼ばれるグループで、レンズ交換をせずに広角〜超望遠までの非常に幅広い焦点距離をカバーしたカメラです。野鳥撮影に向いているのは600mm以上になるもの、倍率では20倍以上の機種になります。荷物を軽くしたい女性にも気軽に持ち運べる500-700g前後の重さが主流です。近年は最大125倍、3500mm1kg以上という高倍率で大型のものが発売されています。自分の体力や荷物量を考慮して自分に適したものを選びましょう。

バードウォッチング カメラ

レンズ最短状態

 

バードウォッチング カメラ

レンズ最長状態

バードウォッチング カメラ

レンズが短い状態で撮影

バードウォッチング カメラ

レンズが伸びた状態で撮影。

 

 

選ぶ基準で大切にしたいこと

 

 自分に合った高倍率コンデジの選択では、以下の3つが自分にとってどのくらい重要かを決めましょう。

 

1.重さ

2.写真の解像度

3.マニュアルフォーカスの有無

 

1.重さ

 高倍率コンデジを選ぶ理由の一つに荷物の軽量化があります。双眼鏡を首から下げた上で、カメラを首から下げるのか、それとも肩がけにするか、ウエストバックに入れて持ち運ぶのかによって、購入する機種の重さを決めることが大切です。私の場合は500-700gを基準に機種選びをしました。双眼鏡とカメラの両方を首から下げて観察することもあるからですが、その状態は12時間と決めています。1kg以上のものを首からずっと下げるのは負担になるので、肩からかけられるようにするか、バッグから取り出しやすい所に入れて持ち運ぶ方が良いと思います。

 

バードウォッチング カメラ

トラップやレンズキャップなどを装着すると説明書数値よりも若干は重くなります。

 

2.写真の解像度

 写真の解像度を上げたいならば、画素数よりも撮像素子(さつぞうそし)というセンサーの大きさに注目することをお勧めします。単位はインチで表現されることが多く、大雑把な説明をすると、この数値が大きいほどセンサーが大きくなり、画質が良くなります。画素数が大きくても、センサーが小さいとその小さな中に細かな情報を詰め込むことになるので、曇りの日や薄暮時間の撮影では厳しい結果になることもあります。野鳥撮影はいつでも好条件ではありませんので、撮像素子の大きさを注目して機種選びをすると良いでしょう。

 

3.マニュアルフォーカスの有無

 基本的に野鳥たちは人間が好きではないので、身を隠すために藪の中や木の枝の混みいった中にいますので、オートフォーカスではピントが鳥にピントが合わないこともしばしばです。そのため、マニュアルフォーカスがあると非常に便利です。この機能のつく機種は少ない上に値段が上がる傾向にあり、しかも限られています。ただし、私はマニュアル機能のついたカメラを購入したことで撮影できる機会は格段に多くなりました。

 

バードウォッチング カメラ

ピントの甘いヒヨドリの写真。手前の枝や草にピントが来てしまったときにマニュアルフォーカスがあると修正できる。

 

 そのほかにも、バードウォッチングの場合は雨の中でも使うので、防塵防滴機能があると良いことや、オートモード(機械任せの撮影)でどのくらい野鳥撮影に向いているか、連写やWiFi機能、などの基準はありますが、その部分は最終的に購入するときに自分にとって必要かどうかを考えることで十分でしょう。もし迷った場合はその場での購入はやめて、観察会や探鳥会に参加して情報収集をしてからでも間に合う買い物だと思っています。

バードウォッチング カメラ

ダイヤル部分のアップ。慣れると手元を見ずに操作できるように工夫されている

 

 

GPS機能はオフに

 

 近年、GPS機能が入っているカメラが増え、観察地も同時に記録できる機種があります。自分で写真を楽しむだけならば良いのですが、撮った画像をブログなどでネット公開することがある場合には、GPS機能を切っておくか、掲載前にその項目が見られないようにしておきましょう。写真の情報からお住いの地域やよく見ている場所などの個人情報が漏洩する危険がありますし、種類によっては生息地を公開することで悪影響があったりします。

 

バードウォッチング カメラ

フクロウ科のアオバズクのような人気のある鳥の生息できる環境は急激に減っているので、生息地の公開は基本的にはしないように心がけましょう(写真は渡りの途中に離島で出会った個体)

 

 

レンズ交換可能な本格派ミラーレス一眼

 

 写真の出来栄えが高倍率コンデジでは納得できないならば、やはりレンズの交換できるハイグレードの本格派ミラーレス一眼をお勧めします。重量は本体とレンズの重さを足した数字になるので、高倍率コンデジに比べれば重くなりますが、ミラーのあるデジタル一眼レフカメラよりは軽くなることがほとんどです。私の場合、どちらも本体+100-400mmのズームレンズ装着という同条件でデジタル一眼からミラーレスに替えて、約1kg軽くなりました。

 ミラーレスカメラはいろいろなメーカーが出しており、それぞれのメーカーの特色があります。その中でマイクロフォーサーズという他社製品と互換性を持った規格があります。野鳥撮影では単焦点とズームレンズの2タイプのレンズを使い分けることが多く、撮影対象によってレンズを選びたい人がほとんどです。そのため、撮影対象に適正なレンズを本体購入したメーカーではラインナップされていないこともあります。しかし、この規格では他社のレンズが選択肢に入れることができるので、非常に便利です。

バードウォッチング カメラ

ミラーレス一眼 外見

 

 

レンズ選びは?

 

 ここでは、歩いてバードウォッチングするなかで撮影ができるレンズの重さに注目してお話します。

 鳥は被写体としては小さく、人間を警戒する生き物ですので、単焦点レンズでは300mm、ズームならば100-300mm100-400mmを選ぶ人が多いようです。私は鳥を探して歩く距離も長いので、双眼鏡や望遠鏡も持っていくことを考慮して1.5kg程度に抑えています。これでも山道を5km以上歩くと体力的には厳しくなってきますので、行程を考慮してコンデジのみにすることもしばしばです。

 野鳥は動きが早いので、レンズは高速シャッターが切れる明るいレンズを選ぶようにしましょう。初期出費はかさみますが、F4.0くらいのものを最初に買っておくと買い直しをする必要がなく、結果として無駄がないと思います。

バードウォッチング カメラ

100-400mmズームレンズは、野鳥との多様な距離に対応できる。300mmの単焦点はレンズが明るく高速シャッターにも対応できるので便利

 

 

本体購入で確認しておきたいこと

 

 本格派ミラーレスカメラ購入前の確認項目は高倍率コンデジ同様ですが、性能に大きく関係する撮像素子は特にきちんと確認しましょう。

 どんな高機能な機種でも自分の求める写真のクオリティを得るには練習が必要で、最初はうまくいかないことも多いでしょう。しかし、その時間をなるべく短くするために購入前には、以下の3点のユーザー評価も確認しましょう。

 

1オートフォーカスの速さ

2手ぶれ補正

3オートモード(機械任せの設定)

 

野鳥との出会いが大体は突然であるために、撮影時に細かな設定をチェックする余裕はあまりありません。私自身もいつもまずはオートフォーカスで手ぶれ補正は一番効くように設定(レンズと本体の両方で作動する設定)し、露出やシャッタースピードはオートモード(機械任せ)です。鳥がいたら、まずはその設定で一枚撮って、しばらくそこに鳥がいそうならば、より良い画像を得るために別の設定に変えています。ネット上にいろいろな商品評価が掲載されていますので、自分の買おうと思っている機種が野鳥撮影でどのような評価がされているのかを見ておくと基準になるでしょう。

 

バードウォッチング カメラ

オートモードは、各社それぞれ独自の名称を与えている

 

バードウォッチング カメラ

コガモの羽繕い。カモなど大形の鳥はピントが合いやすい。

 

バードウォッチング カメラ

背景の色にもよるが、光が強い日の逆光ではオートモードでの露出は鳥の影が出やすい。

 

バードウォッチング カメラ

ジョウビタキの雌。小鳥類の撮影では対象が小さいため、いい写真を残そうと思うとマニュアルでの調節が必要なことが多い。

 

 

 

カメラ持ち運びバッグいろいろ

 

 カメラを入れて運ぶバッグにもいろいろありますが、泊まりがけでなければコンパクトに収めることを考えた方が歩く距離が長くなっても安心です。近所を2-3時間〜半日程度ならばショルダーバッグタイプ、1日ならばバックパックタイプが適当でしょう。

 

バンガードの「VEO RANGE」シリーズのバックパックはオススメのバッグです。ボトルなども取り出しやすいですし、バックルを利用して雨具を留めることもできます。

 ちょっと空いた時間に身近な場所へ行く程度ならば、ショルダーバッグタイプで十分です。双眼鏡とカメラをパパッと入れて出かける気軽さをサポートしてくれます。

バードウォッチング バッグ

 

 

オススメの撮影スポット

カモのいる池がある緑の多い公園

 

 街の中にある池と樹林のある公園は、水鳥と森林に住む小鳥などの撮影にとても良いスポットです。特にカメラを買って間もない時期は、いろいろな撮影ボードを使って落ち着いて撮影の練習ができます。池にいるカルガモをいろいろな設定で撮ってみて、自分の気に入る写真がどのモードで表現できるかなどを確認しておくと、憧れの地などで慌てずに撮影できますし、シジュウカラなど動きの速い鳥を撮影するのに、どんなカメラワークが必要かもじっくりと研究できます。

バードウォッチング カメラ

公園例の画像。池と樹林帯がある場所は、四季折々にさまざまな野鳥が楽しめる。

 

カメラ練習に良い公園の例:

 

大沼公園(北海道)

鶴岡公園(山形)

浮間公園(東京)

大町自然観察園(千葉)

泉の森公園(神奈川)

北本自然観察公園(埼玉)

庄内緑地公園(愛知)

万博記念公園(大阪)

昆陽池公園(兵庫)

大濠公園(福岡)

水前寺公園(熊本)

 

 

撮影マナーについて

 

 近年は野鳥撮影マナーにも注目が集まりつつあります。特にカワセミなどの人気の鳥がいる場所や珍しい鳥が出た場所では、カメラマン同士で場所の取り合いで口論になったり、地域の方々とのトラブルが発生することもしばしばです。基本的には譲り合い、撮影が近隣住民の方にとって不快なものだと察したら、すぐにその場から離れるようにしましょう。そのほか注意すべきことは、「人家方向へカメラを向けない」ことや「違法駐車しない」、カメラマンによる「一般の方々の通行を妨げない」、「大声で話さない」、「ゴミのポイ捨てをしない」などは当然のマナーです。私が相談を受けた例でひどいケースとしては「カメラマンが道端でトイレをしてしまって困る」などがあり、問題になった例をあげたらキリがありません。

 

 しかし、あれもダメ、これもダメだと、注意項目を列挙されたら、せっかくの野鳥との楽しい時間も喜びが半減してしまいます。

 

 そこで、「やってはいけないこと」を細かく例に出すよりも、「自分の家の前でされたら嫌なことは、その場所でもしない」という基本姿勢になって行動をすれば、きっとみんなが楽しくなると私は考えています。自分の家の窓の方向に多くの人が望遠レンズを向けている状況を想像すれば、それが自分にとってやはり気持ちの良い状況ではないですよね。それならしない、という判断をすれば良いのです。

 

 野鳥への配慮については、わかりやすく解説した大変参考になるサイトがありますので、そちらもご覧ください。

 

キヤノン発行

野鳥撮影マナーブック

https://cweb.canon.jp/pdf-catalog/eos/pdf/bird-manner.pdf

 

マナーを守って、楽しい野鳥撮影をしていただけたら嬉しいです。

バードウォッチング カメラ

 

三脚で通路を塞がないようにして鳥を待っている人たち。こうすることで、この場所を利用する人が皆幸せになれます。

 

 

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筆者紹介


神戸宇孝

野鳥画家 神戸宇孝(ごうど うたか)

プロフィール: 1973年石川県生まれ。
英国サンドーランド大学自然環境画学科卒。

5歳の時に野鳥観察に興味を持ち、野鳥画は小学生の時に動物画家の薮内正幸氏の絵を見て描くようになる。CWニコル氏の環境管理について学び、2000年英国に留学、野鳥生物を描く基礎を学ぶ。在学中、野鳥雑誌BIRDWATCH野鳥画コンペティションに最優秀画家の一人に日本人としてはじめて選ばれる。野鳥の行動や環境と生き物のつながりを観察するのがモットー。

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