第1回 まずは街の中で探してみよう!
はじめに
バンガードのサイトを閲覧の皆さん、こんにちは。鳥類画家の神戸宇孝です。私は幼稚園の頃に野鳥観察に興味を持ちました。長年、鳥に会うためにどのようにすれば良いか?を考えて生きてきたせいか、鳥の探し方や見分け方について質問をよく受けます。慣れてしまえば実際には難しくはないのですが(ズボラな私でもできる!)、それがビギナーの皆さんにとって役立つ情報とのことで、2年間で8回の連載を通して、環境別にバードウォッチングが上達する方法を紹介していきたいと思います。
よろしくお願いいたします。
大自然には鳥がいない!?
皆さんはバードウォッチングと聞くと、緑あふれる大自然の中で双眼鏡を使って鳥を探すことを最初にお考えになるかと思います。しかし、野鳥観察を始めたばかりの時に豊かな森の中などに出かけた方からは「鳥が全然見つけられなかった」とお聞きすることがあります。それはその場所に鳥がいなかったわけではなく、葉のかげになって鳥の存在に気がつけなかったことが大きな要因であることがほとんどです。
葉の多い春や夏の森では、鳥の姿を見つけにくい
森の中では見つけることが難しい鳥たちですが、バードウォッチング歴が長い人と一緒に森の中を歩くと、次々と鳥たちを見つけていきます。つまり、視界のどこかには鳥がいるのです。その“視界の中に入っているはず”の鳥の姿に気がつけるようになるためには、どのようにしたら良いのでしょうか?それはちょっとしたトレーニングをすることで簡単に身に着けることができます。そのトレーニングで最初に試していただきたい場所は、街の中です。
街の中の風景。実は、この中にも鳥がいます
街の中のどこを見るか?
街の中で鳥を発見する力を上達させるトレーニングになるのは、電線や電柱です。電線や電柱は街にいる身近な鳥がよく止まる場所の一つで、しかも全身が見えるため、図鑑で紹介されている特徴が確認できる条件が揃っています。さらに図鑑の書いてある鳥が、野外で実際にどのように見えるのかがよくわかります。
電線に止まる鳥の例。屋根と重なっている部分にも鳥が一羽いることに注目
「ものさし鳥」で、サイズを掴む
電線に止まる姿をよく見るのは、スズメ、ムクドリ、キジバト、ハシブトガラスです。これらの鳥は「ものさし鳥」と呼ばれ、野外で大きさを把握する指標に選ばれることが多い鳥です。図鑑ではスズメは14cm、ムクドリ24cm、キジバト33cm、ハシブトガラス56cmとなっています。
スズメ
ムクドリ
キジバト
ハシブトガラス
これらの鳥のサイズ感を目に覚えさせることがまず重要になります。例えば、スズメがどんな距離に何羽いてもスズメとわかるくらいに、しっかり目に焼き付けましょう。
電線に止まるスズメ
「たぶん、スズメでしょ?」から「これはスズメ!」へ
スズメに目が慣れてくると、街の中の電線に止まる小鳥を確認していくなかに「スズメではなさそうだ」という感覚が出てきます。これまで「たぶんスズメでしょ」と思っていた鳥が実は違うかもしれないことに気がついた瞬間です。どこが違うのかをしっかりと把握していくことが大切です。
例えば「スズメとほぼ同じ大きさで形も良く似ているけれど、スズメよりも直立姿勢」と感じる鳥がいたら、それはカワラヒワかもしれません。大きさや姿勢の違いに気づいたら、尾羽の先端なども確認しましょう。カワラヒワはスズメと違って、尾羽先端の真ん中が凹んでいます。
それとも違うと感じたら、見ている小鳥はシジュウカラかもしれません。こんなふうにしてスズメを基軸にして、自分のわかる鳥を増やしていきましょう。慣れてきたら動きにも注目していきましょう。例えば、シジュウカラはスズメよりも機敏に動くなど違いがあります。
カワラヒワ
シジュウカラ
ムクドリと大きさが近いヒヨドリとツグミ
ムクドリと大きさが近い鳥の代表選手に、街の中で非常によく見られる鳥にヒヨドリがいます。ずんぐりとしたムクドリに比べると尾羽が長いのが特徴です。ムクドリに比べると木に止まるのが好きなようで、庭や公園など、緑の多い場所で見られることが多い鳥です。
ヒヨドリのシルエットはムクドリに比べると尾羽が長く、頭がボサボサ
秋から春にかけては、ムクドリによく似た形のツグミも電線に止まる姿が見られます。ムクドリよりも細身で尾羽はヒヨドリよりも短めなのが特徴です。畑のそばにある電線などでは、一緒に並んでいる姿を見ることもありますので、そのような機会に大きさや姿勢、行動などを見ておきましょう。ツグミには胸に黒い斑点模様があるのが特徴です。
ツグミ(右上)とムクドリ
ハシブトカラスとハシボソガラス
最初に「ものさし鳥」で紹介したハシブトガラスがわかるようになったら、次にハシボソガラスを覚えましょう。ハシボソガラスは大きさが50cmで、ハシブトガラスより少し小さいカラスです。見た目は真っ黒でほぼ同じに見えますが、この6cmほどの長さの違いが目で把握できることが、様々な鳥の見分けをしていく際にとても役立ちますし、よく見ると、ハシボソガラスのほうがやや細身という違いにも気づくでしょう。
ハシボソガラスはハシブトガラスに比べると、少し穏やかな顔つきをしています。
ハシブトガラス(一番右の個体)とハシボソガラス
バードウォッチングは身近な鳥から
身近な鳥をしっかり見る習慣をつけておくと、環境別に野鳥の種類の傾向を捉える習慣がつき、自力で珍しい鳥を見つけることができるようになります。身近な環境で経験を積み、いつか会うかもしれない貴重な出会いを逃さないようにするのが、バードウォッチングの楽しみ方の一つであること私は思っています。事実、私も初めて訪問する場所で、地元のベテランバードウォッチャーの方に「よくこの場所で○○を見つけたねぇ」と褒められることがありますが、それは珍しい鳥を探そうと思っているのではなく、その場所にいるごく普通の鳥を見続けて見つけることがほとんどです。
ホオジロとちょっと珍しい鳥ミヤマホオジロ(左)。あまりいい写真ではないですが、自力で見つけた嬉しさは格別でした!
次回は、街の中の河川での観察ポイントを紹介します。
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筆者紹介
野鳥画家 神戸宇孝(ごうど うたか)
プロフィール1973年石川県生まれ。 5歳の時に野鳥観察に興味を持ち、野鳥画は小学生の時に動物画家の薮内正幸氏の絵を見て描くようになる.CWニコル氏のものの環境管理について学び、2000年英国に留学、野鳥生物を描く基礎を学ぶ。在学中、野鳥雑誌BIRDWATCH野鳥画コンペティションに最優秀画家の一人に日本人としてはじめて出される。野鳥の行動や環境と生き物のつながりを観察するのがモットー。 |
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