第7回 高原の鳥たち

はじめに
バンガードのサイトを閲覧の皆さん、こんにちは。鳥類画家の神戸宇孝です。私は幼稚園の頃に野鳥観察に興味を持ちました。 長年、鳥に会うためにどのようにすれば良いか?を考えて生きてきたせいか、鳥の探し方や見分け方について質問をよく受けます。 慣れてしまえば実際には難しくはないのですが(ズボラな私でもできる!)、それがビギナーの皆さんにとって役立つ情報とのことで、2年間で8回の連載を通して、 環境別にバードウォッチングが上達する方法を紹介していきたいと思います。
よろしくお願いいたします。
暑さを避けて高原へ
私が子供の頃(1980-90年代)は7-8月の気温が30度以上になることは珍しかったのですが、近年、夏は非常に暑くなったせいもあり、なかなか自宅の近所でバードウォッチングを計画するのは難しくなりました。そのため、私は最近では真夏に高原など涼しい場所へ行くことが増えてきました。一言で「高原」と言っても、野鳥たちはその中の微妙な環境の違いを種ごとに使い分けています。その違いを感じ取る力をつけると、鳥の探し方や見つけ方をマスターできます。

現在、高原と名前が付いている場所は夏の間の牛などの放牧地になっていることもあるので、立ち入り禁止区域には家畜の伝染病対策のためにも、絶対に入らないようにしよう
草地が広がる高原
高原と聞いて思い浮かべるのは、木々がまばらにある草地が広がり、散策路が木道になっている写真のような風景ではないでしょうか?

木道が設置されている高原の散策路
このような環境でまず探したいのは、ホオジロです。

草地の代表選手、ホオジロ
ホオジロが生息している高原は、虫がいて、自分の縄張りを見渡すことのできる、周囲から少し高い木々があることを示しているので、他の鳥たちも生息できる条件があることを教えてくれます。ホオジロが見つけられた高原では、同じホオジロ科のホオアカを探してみましょう。

夏羽のホオアカ。名前の通り、頬が赤っぽい色。ホオジロに似た声で囀る
ホオアカは冬の間は平地の田畑にも飛来していますが、発見するのが少し難しいので、夏の高原でしっかり見ておくとよいでしょう。もう一つ、同じような環境で見られるのは、ノビタキです。

ノビタキ
ノビタキは本州中部以北の高原に夏鳥として飛来し、北海道では平地にもいますが、不思議なことに東北地方では近年は繁殖期には見られないようです。雄は白黒模様と胸のオレンジ色がとても印象的です。
平地にも生息するホオジロを普段見つける力を上げておくと、ホオアカやノビタキを見つけることにつながります。
少し明るい林では
林床に少し草が生えている明るい森では、様々な鳥の声が響いてきます。どの声がどの種なのか、初めのうちはひょっとしたら迷ってしまうかもしれませんが、まずは数が多くて大きな声で鳴いている耳慣れたウグイスの姿を探してみましょう。

広葉樹の林は明るいので、鳥の姿も探しやすい
ご存知のようにウグイスは「ホーホケキョ」と聞こえる大きな声で囀ります。ただ、姿は周囲の緑に溶け込むような緑褐色なので、意外と見つけるのは難しいです。見つけ方のコツは、声がしたらその方向を見ながらゆっくりと2、3歩左右に移動して、音源の位置を探るようにすると絞り込みやすくなります。

枝に葉が多い場所で鳴いているウグイスは見つけにくいですが、数歩ずれるだけでよく見えることもしばしばです。
ウグイスと並んで個体数が多いのはアオジです。黄緑色や緑色の羽毛を身に纏うホオジロの仲間で、ピィチョン、チチーチョ、ピッチョンチチなどと、やや高いゆっくりとした調子の良い声で鳴きます。ウグイスのように周囲の色に溶け込みやすい羽色なので見つけにくいかもしれませんが、同じ場所で長く鳴くことが多いので、声がしたら焦らずに探してみましょう。

アオジ。冬に平地で見られますが、越冬期は茂みや暗い場所にいて、姿は見えにくい。
数が多くて同じ場所で長く鳴いているのに、見つけにくい鳥に、キビタキがいます。綺麗な黄色が目立ち、見つけやすいと思いがちですが、実際の森の中では意外とすんなりとは見つけられません。林内空間を飛び回って飛んでいる虫を捕まえて食べているので、飛び回った後に止まった枝を見失わないようにするのが良いでしょう。

図鑑で見ると、キビタキの雄は鮮やかな黄色が目立ちますが、森の中では意外と木々の緑に溶け込みます。
高原でキビタキを見ていると、地味な灰色の鳥に気づくことがあります。キビタキやオオルリの雌であることも多いのですが、高原など標高の高い林に主に生息するサメビタキの可能性もあります。地味な色合いですが、目が大きくクリクリしているとてもかわいい鳥です。声も大きくない鳥ですので見つけるのも、見分けるのも、最初は難しいかもしれませんが、私は高原に行くと「いるかもしれない」と心の準備をしています。その「準備」が、サメビタキに気づけることに繋がっていることが非常に多いです。

サメビタキは個体数も多くはないので、見つけられたらラッキーな鳥の一つ。
林床に笹薮があり、太い木が目立つ森
鳥を探す難易度が上がりますが、林床に笹薮がある樹林は、樹冠が葉に覆われてやや暗い森になっていることが多く、他の場所では見られない鳥に出会うことができます。

林床に笹藪のある樹林は、大きな木々が所々に見られることもあり、豊かな生態系になっている場所も多い。
この環境で会える代表的な鳥がコマドリです。ヒンカラカラカラという大きな美しい声で鳴くため、日本の三鳴鳥の一つに数えられることもあります。日中は藪の中にいることが多いのですが、早朝などは笹藪から少し飛び出た枝や周囲を見渡せる岩の上などで鳴いていることが多いので、観察しやすい時間の一つです。

コマドリは、早朝にこのように周囲を見渡せる枝先などで鳴くことが多いので、観察しやすい。
しかし、残念ながら生息数は減少傾向です。近年はシカやイノシシが山々に増えたことでコマドリの生息環境である森の中の笹薮の面積は著しく減少しており、それに伴い、コマドリは観察できる場所も減ってきています。人気のある鳥なのでカメラマンの撮影対象になりやすく、餌付けなどをしている場所も多々見られます。野鳥の生態を大きく変えてしまうこともある餌付けですので、そのようなことは絶対にしないでいただきたいと思います。
早朝にコマドリが止まるような場所には、大変小さいミソサザイという鳥もよく利用します。非常に大きな声で鳴くので大きな鳥と勘違いされますが、実際は体長10cm程度しかありません。朝早くから元気な声で囀るので、こちらが観察しながらあくびなどしていると、「しっかり起きて!」と言われているような、そんな気持ちになります。

掌にちょこんと乗ってしまう大きさのミソサザイ。気温が低い朝は、口から湯気が出ている様子が見られることもあります。
コマドリほど知名度が高くないものの、姿の渋さがバードウォッチャーに人気のあるクロジも、高原で笹藪のあるやや暗い森が好きな鳥の一つです。ホオジロの仲間ですが、日本を中心とした極東地域にしか生息しない鳥の一つです。「フィー、チヨチヨ」と大きな声で鳴くのですが、黒っぽい色合いが樹林の影に良い具合に隠蔽され、見つけにくい鳥の一つでしょう。

クロジ。全身がやや紫がかった黒色で姿は見つけにくいが、大きな声を頼りに森の中で探してみよう。
森の鳥探しに疲れたら
高原には時々沼や緩い流れのある水辺があり、そのような場所でゆっくりするのも、なかなか良いものです。

ちょっとした水たまりでも、林に囲まれた環境は鳥の生息環境にもってこい。
ごく普通種ですがマガモが繁殖していることもあります。しかし、「なんだ、マガモか〜」とバカにしないでください。普通種のマガモがいることが、とても大事なのです。

マガモ。冬に平地で見られる種と全く同じです。
マガモが夏の高原の水辺にいること。それは、オシドリに会えるかもしれないというシグナルです。野鳥に興味をもった多くの人が珍しい鳥を見たい、たくさんの種の鳥に会いたいという願望をもっていますし、私もそんな一人です。私の経験では、自分のいる環境で「いるはずの鳥が、きちんといる環境」ならば、他の鳥が生息できるポテンシャルがあると感じています。

オシドリの雄。雌のみが営巣と子育てをします。
「当たり前の鳥が、当たり前にいる」。
そんな環境を大事に見つめていくと、きっと皆さんにも憧れの鳥との良い出会いがあると思います。
今回紹介し切れませんでしたが
高原には多くの鳥たちが生息しています。普段自宅周辺や低山ではキツツキ類はコゲラやアオゲラ、アカゲラが見られるのみですが、高原へ行けばオオアカゲラに会う機会がありますし、傾斜のある山々を歩くよりも高原ではゴジュウカラに会える頻度が上がります。

オオアカゲラ

ゴジュウカラ
今回は高原を入山しやすく、鳥の多い初夏の様子をご紹介しましたが、秋に北国から渡ってきた冬鳥たちが木の実のたくさんある高原地帯であることが多いので、訪問の機会があれば、カバンの中に双眼鏡を一つ入れておくと良いことがあるかもしれませんね。

ミズキの実に飛来したマミチャジナイ
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